RubiscoCO2固定反応エンジニアリング

Engineering of CO2 fixation of Rubisco

 

   光合成おける初期CO2固定反応を触媒する酵素リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)の反応効率を高めることで作物の光合成能力の改良をこころみています.

 

    We are trying to improve the photosynthetic capacity of crops (mostly rice) by enhancing the reaction efficiency of ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase (Rubisco), an enzyme that catalyzes the initial CO2 fixation reaction during photosynthesis.

 

1.高活性型Rubiscoの導入

      Rubiscoの触媒反応は他の酵素に比べて非常に遅いです.Rubiscoの触媒速度には種間差があり,CO2濃縮回路をもつC4植物では高いことがわかっています.そこで,C4植物のソルガムなどのRubiscoC3植物のイネに導入し,光合成能力の改良を試みています.Rubiscoは大サブユニット(RbcL)と小サブユニット(RbcS)の2種類のタンパク質から構成されています.私たちはソルガムRbcSを遺伝子組換えでイネに導入することにより,世界で初めてRubiscoの触媒速度の大幅な改良(約1.5倍)に成功しました.さらに,ゲノム編集CRISPR/Cas9法で,イネが持つ4つのRbcSをすべてノックアウトし,イネRbcLとソルガムRbcSの完全なハイブリッドRubiscoを発現するイネの作出に成功しました.そのハイブリッドRubiscoはさらに高い触媒速度(約2倍)を示しました.また,X線結晶構造解析からソルガムRbcS102番目のロイシン(イネではイソロイシン)が触媒速度の決定に重要である可能性を見出しました.現在,葉緑体ゲノムにコードされたRbcLのゲノム編集を利用した改変,C4植物の遺伝子配列情報からC4化させたRbcLRbcSのイネへの導入を進めています.

2.Rubiscoの活性化の促進

   Rubisco activase (Activase) Rubiscoに結合した阻害剤の解離に働く分子シャペロン様タンパク質です.Activaseを高発現する形質転換イネを作出して光合成特性への効果を解析したところ,Activaseを高発現させると,予想とは異なり,Rubisco量の減少を招き光合成速度が低下することがわかりました.光合成の改良はできませんでしたが,RubiscoActivaseの間に特異的な含量調節メカニズムが存在することを明らかにすることができました.その他,Activaseは高温感受性が高いタンパク質であり,CAM植物やC4植物の高温耐性Activaseをイネに導入することでイネの高温耐性を改良する研究も進めています.

 

 

 

CO2応答メカニズムの解明

Analysis of elevated CO2 response mechanism in plants

 

   大気CO2濃度の増加に対する植物の応答を遺伝子レベルで解明し,将来的な高CO2環境で高い生産性を示す作物を開発することを目的とした研究を進めています.

 

    We are conducting research aimed at elucidating plant responses to elevated atmospheric CO2 concentration at the molecular level and developing crops that exhibit high productivity in future environments.

 

1.高CO2応答の分子メカニズムの解明

 

   CO2濃度を制御できる温室やグロースチャンバー,開放系CO2増加施設(FACE)などを利用してイネを高CO2条件で育成し,遺伝子レベルでの高CO2応答についてトランスクリプトーム解析を行っいました.その結果,リブロース1,5-ビスリン酸再生,デンプン合成,窒素固定など高CO2処理により発現が変化する代謝系を明らかにしました.また,多くの機能未知のCO2応答性遺伝子を同定しました.

 

2.植物におけるデンプン合成制御メカニズムの解明

 

  高CO2条件で顕著に発現が促進される機能未知のCCTタンパク質(CRCT)について機能解析を行っいました.CRCTを高発現する形質転換イネでは葉鞘や稈といった栄養器官においてデンプン含量が3-5倍に増加し,発現抑制イネでは減少しました.また遺伝子発現解析から,CRCTはデンプン合成関連遺伝子のマスター制御因子であることを明らかとしました.さらに,CRCT高発現イネは非形質転換イネに比べて光合成速度が高くなること,CRCTは核において14-3-3タンパク質と相互作用すること,デンプン合成関連遺伝子のプロモーター領域に結合することなどを明らかとしました.現在,CRCTの細胞間移動,14-3-3タンパク質との相互作用の意義,CRCTの作用のイネ品種間差,イネ以外の植物におけるCRCTオーソログの機能の解析を進めています.